京都府立植物園は人より規則を
もっとうとしております。あしからず・・・・。

  京都府立植物園の花菖蒲が満開近いと聞いて出かけた。うちからは20分ほどであ
る。
 北大路通りから入った南門の所に駐車場がある。寺や神社の駐車場と同じく、入る
時に一律800円払う。何時間駐車しようと金額は変わらない。
 駐車場へ入ろうとしたが、私たちの前のマイクロバスがメチャクチャ下手な運転
で、領収書が出る機械の上にあるパラソルにひっかっかって動けなくなっている。機
械にお金を入れたらバーが開く自動のものではなく、そこに立っているおじさんに
800円を払ったら、おじさんが機械から出てくる領収書をくれる。バーはない。
 おじさんが、ひっかっかった大きなパラソルをやっとのことではずしたが、マイク
ロはまだぐずぐずしている。「レンタカー」と大きく車体の横に書かれているので、
素人の下手糞ドライバーなのだろう。暑い中、待たされていた私たちは、そのマイク
ロに呪いの言葉を吐き散らしていた。ついでに、立ち往生するマイクロの誘導もでき
ぬ駐車場のおじさんにも。
 その時、そのおじさんが私たちの車のほうへ歩いてきた。長時間待たせると悪いと
賢い判断を下したらしく、「800円」と要求したので渡して、マイクロの横を通って
駐車場へ入った。特に入り口があるわけではなく、広く開いているので、難なく入れ
た。駐車場はがらがらだった。

 夫が花菖蒲を見ている間に、私は薔薇園のほうを散歩した。その後、園内のレスト
ランでカレーを食べた。要した時間は2時間。
 暑さでぐったりして車に乗り込もうとドアを開けた時、駐車場のあのおじさんが私
たちに話しかけてきた。暇だから時候の挨拶でもしているのかと、にこやかに振り返
ろうとしたが、次の瞬間、私の笑顔は凍りついた。
「あんたの車がさっき入った時に見とったもんがおって、金を払わんと入ったと言う
んやけど」
 主人はもちろん、温厚を売り物にしている私も切れた。
「あなた!領収書!」
 なにもかも無くしてしまう夫が、領収書を保存しているかどうか不安にかられなが
らも、私は叫ばずにはいられなかった。
 奇跡的に領収書は夫のポケットから出てきた。私は強気になった。
「どこの誰がそんなこと言ったのです!」
 心の中では、どこのどいつがそんなことぬかしよった!と罵りの文字が流れていた
が、さすがに口をついては出てこなかった。まだ修練が足りない。
「60歳以上は入園料無料と書いてあるけど、ちゃんと金払って入ったんだぞ」
 夫も、領収書が出てきて俄然、強気になった。領収書があろうがなかろうが、私た
ちがちゃんと800円払ったことに間違いはないのだが、人間、はっきりした証しを持
たずに身の潔白を証明するのは、かなりしんどい。
 実は、入園料に関しては、窓口でちょっと迷った。60以上は無料と書いてある。
しかし、それを証明するものを見せねばならない。夫は免許証を持っているから問題
ない。入園料は200円である。200円を逃れるために年齢を証明するものを提示するの
には抵抗がある。
それだけの理由で支払ったに過ぎず、京都府にわずかでも貢献しようなどという高邁
な精神からではないことは確かだ。でも、この際、
大声で抗議する恰好の材料にはなった。
 私たちの血相かえた様子を見て、おじさんは震え出した。普通の夫婦連れだと思っ
たのが、そうではないらしい、年取ったヤクザと極妻か、おじさんの頭の中で恐怖と
疑いがめまぐるしく行き交っているのが見てとれた。やっぱりベンツに因縁つけるの
はやめといたほうがよかったと後悔でいっぱいになっているのが手にとるようにわ
かった。
 ひたすらあやまりながら後ずさりするおじさんを睨みつけながら、発車した。
 「自分でお金をとりに来たくせに、それにこんな車の少ない日になんですぐに忘れ
るのよ」運転しながら、呪いの言葉を吐き続ける私を、夫は「もうそのくらいにせ
え」と諌めた。いつもは瞬間湯沸しの夫を私がなだめるのだが。「お腹が空いとった
ら、もっと腹立ったけど、昼を食べた後やったから」と夫。情けない。

 府立植物園には行くたびに腹立たしいことが起こる。
 昨年の春に、友人と二人ででかけた時にも職員と喧嘩した。
 今回と同じ駐車場に車を入れて、園内を散歩した後、北山通りにある北門から出
て、隣にできている同じく京都府の施設である庭園美術館へ行った。その後、北門か
ら再び園へ入り、まっすぐつき抜けて南門にある駐車場へ行こうとした。
 閉園時刻に近いので、北門から入ることを拒否された。もちろん、南門のほうから
も入れなくなっているのだろう。
「これから植物園へ入りたいんじゃなくって、駐車場へ行くだけなんです」と何度説
明しても、許さないと言う。年取ったおじさんだった。入園料の領収書を見せても、
ダメの一言だけ。
 私と友人はその態度に切れた。門から入れなければ、園の外をぐるっと回って駐車
場へ行かねばならない。何倍もの距離である。そんなバカなことする気はない。ここ
は強硬突破しかないと決めて門の中へ入り歩きだした。閉園にはまだしばらく時間が
あったので、園内には散歩する人がまだたくさんいた。
 おじさんは追っかけてきた。あくまで制止したいらしい。もうこうなったらお互い
執念みたいな感じだった。
「ほんとに、私たち足が悪いというのに」ぶつぶつ言う私たちの後ろで突然、おじさ
んが弱々しい声を出した。
「今回だけは中を通って駐車場へ行ってもええ」
 さっきまでの態度はどうしたのか、突然の変化に私たちは歩きながら顔を見合わせ
た。
 他の友人にこの話しをしたところ、こんな話しをしてくれた。
 植物園は府の施設なので身障者に対しては特別な配慮を義務付けられている。足が
悪いと言う人間を歩かせたとなると、後でどんな問題になるかわからない。
 それで、あのおじさんの豹変ぶりが納得できる。「私たち足が悪いのに」という、
何気なしに口にした一言が、あのおじさんの脳天を直撃したのだ。自分の身を守らね
ばという思いが、体をつきぬけたのだろう。
 私は足は悪くない。ただあまりに疲れていただけだ。でも、友人のほうは病気持ち
で足も少し引きずっている。したがって嘘をついたわけではない。
 しかし、足なんか悪くなくっても、私は門から押し入った。まだ散歩中の人がいる
開園中の園に蓋をしてしまって、遠回りせよとはあまりに理不尽ではないか。植物園
へ来た客、駐車場代まで払った客をなんと思っているのだろうか。
 京都府の施設ということは、働く人は府の職員である。公務員の全てがそうとは決
して思わないが、こういった融通のきかない、規則がすべてという人はたくさんい
る。規則よりも人間を優先するようにという嘆願書をいつか知事に提出しよう。

 今回、私が800円を払わなかったと密告したのは、もしかしたら昨年北門で私を阻
止しようとしたおじさんかもしれない。今年は南門の担当で、たまたま私を見つけ仕
返しをしたのだ。
 自分の推理を確かめるために、また近いうちに植物園へ行こう。